8. アーティスト ステートメント後編/ 書く


実際にアーティスト ステートメントをゼロから作るときに、何から始めたらいいのでしょうか。Social Mediumというアートライティングに関する本の編集者で、アメリカの芸大でアート&ランゲージセンターのダイレクターであるジェニファー・リーゼは「多くのアーティスト ステートメントは、同じように聞こえる。私の一番のヒントは、モデルや公式に従わないことです。その代わりに、観客、審査員、批評家など、あなたの作品をよりよく理解するのに役立つ具体的な内容をブレインストーミングしてみてください。」と言っています。ただ、それってどうやるの、という話なんですが、スクール・オブ・ビジュアル・アーツのライティング講師であるジェフ・エドワーズも、いきなりステートメントを書き始めるのではなく、書き始める前にアイデアを整理することを勧めています。

材料調達 (ブレインストーミング)

アイデアを整理なんてそりゃそうだろと思う反面、意外とできていない人も多いのではないでしょうか。そこでエドワーズが提案するのは

キーワードやコンセプトをインデックスカードに書き留めてテーブルの上に広げたり、大きな画用紙を使って書く予定の内容を図にしたりする

のもひとつの方法です。あなたの芸術的影響、プロセス、作品の形式的特質、原点、あなたの作品につながる引用などを可視化させましょう。また、個人的におすすめなのが、

散歩フリートーク

です。自分ひとりでもいいですし、誰か友達を誘って、散歩に出かけるのも効果的です。そして歩きながら自分のアート実践についてフリートークをします。2人で歩いている場合質疑応答があってもいいと思います。この時、必ず録音しておくか、文字起こしを忘れないようにしてください。頭の中で考えることと、人に伝えるために口に出すことでは、時に全く違う言葉が出てきます。そして歩くという行為は何かもうひとつ違うチャンネルがあると個人的に思っていて、また違う言葉が出てくることがあるので、材料集めにはおすすめです。こうして材料をある程度集めたら、リーゼおすすめの次のアプローチもとても効果的です。

インタビュアーに聞かれたい質問を5つ書き出す 

これは客観的に素材を整理するのに役立ちますし、what/whyの整理も助けてくれます。まさに私も頻繁に陥るのですが、自分のアート実践における前提が他者にとっては全くそうではないために読者を置き去りにしてしまいがちです。そこでインタビュアー側の客観的視点を持ちながら、自分が答えたい=核として伝えたい事を書き出しましょう。相手の頭の中でイメージが湧く言葉にできるととてもいいです。

フリーライティング

材料が集まってきたくらいで、両者ともに必須プロセスとして薦めているのがフリーライティングです。フリーライティングとは、文の形式や言い回しなどは置いといて、とにかく自由に自分のアイデアを紙に書き続けることです。書き始めると、アイデアに詰まったり、何を書いているか見失ったりすることもあるかもしれません。ですが「座って、完璧な文章や散文が出てくると期待しないでください。アーティスト ステートメントの長さが大体200ワード程度がよく公募で見かける長さだとすると、その3倍の量を書いてみてください。書けば書くほど、ステートメントの中で適切な疑問やつながりを提起できる可能性が高まります」とリーゼはアドバイスしています。なのでとにかく書くこと。それを助けてくれるのが "時間制限" です10〜20分のタイマーをセットして、ある程度のタイムプレッシャーをかけた上でフリーライティングを始めると、絞り出しの助けになってくれることもあります。限られた時間の中で選択した材料が自分の制作にとって重要な要素であることを示唆していることもあるでしょう。

編集
ここからはいよいよ編集です。編集といってもそれが完成品になるということではなく、前編の構成要素を参考に全体を形作っていくイメージです。しかし、リーゼは「自分の作品について形式的に説明したり、素材の選択について述べたり、自分の活動にとって重要だと思われる背景を説明したりすることは悪いことではありませんが、定型的なアーティスト ステートメントでは、競争相手から際立つことはできません」と言っていますので、あまり固執する必要はないのかもしれません。事実、アーティスト ステートメントも、手法や哲学をアカデミズムに則って書く伝統的な書き方から、もう少し砕けた、シンプルで理解しやすいスタイルにシフトしてきているようにも思います。いずれにしても3段落構成が読みやすくまとまると思います。

フリーライティングを元に、さらに2〜3個に細分化させて個別に文章を書いてみましょう。その後その2、3個を一つの項目としてまとめる作業を各段落で行います。エドワーズは、決まり文句、専門用語、無意味な繰り返し、無関係な余談を削除することに集中するようアドバイスしています。「最初に編集に戻ったとき、最初は重要だと思われたものの、実は余計なことを書いていることに気づくでしょう。何を削るかを決めるのは、最初は苦痛かもしれませんが、必ず文章は良くなります」

これらのプロセスを経ると、結構ステートメントとして形になってきていると思います。大変な作業に思われるアーティスト ステートメントもブレインストーミング・フリーライティング・編集の主な3行程だと考えると少し楽になるはずです。

ステートメントとして書く (体裁を整えていく)

抑えるポイント
• できる限りシンプルな文章(長くても分かりやすく)
• 1人称表現で"I"を使う
• 読む人の頭の中にイメージとして湧くこと(初めましての読み手を想定)
• 出来るだけ具体的に
• メディウムの明記

気をつけるポイント
• 造語を使わない(辞書に載っている単語を使いましょう)
• 複雑で難しい表現•専門用語を避ける(ここで読み手の気持ちが離れる)
• 作品を見た人がどう感じる/感じて欲しいかを書かない(それに導くあなたの独自の手法を書くのがステートメント)
• 子供の頃の生い立ちを書かない(自叙伝っぽくなりやすい)。ただし自身の制作の根幹である場合はその限りではありません。

・注意したいのは、日本語は極めてボヤけた(超表現豊かな)言語なので、それをそのまま訳しにかかると英語では何言ってるか分からない文章が出来上がります。英語はとてもプレゼン向きな言語なので、明快に、具体的かつ直接的に書くことを心がけましょう。加えて私の場合、文頭に副詞(Actuallyとか~lyの単語)を使うことがないように気をつけています。

・ここでも内容が重複していないか十分に気をつけます。読み返した時に、同じこと繰り返してない?と思ったら、まず繰り返してます。なので、言いたい方もしくは文脈に上手く乗っている方を残し、片方を思い切って消します。さらに言うと同じ単語の重複もできるだけ避けた方がベターです。

・ステートメントの中で一番複雑になってるなぁココ。という一文を抜き出し、日本語に訳してみましょう。ここをちゃんと伝わる表現にできれば、全体のステートメントとしてあなたのコンセプトは伝わっているはずです。

Proof Reading

自分の文章を修正するだけでなく、自分の仕事をよく知っている人、アート関係ではない英語堪能者に分けて自分の文章を見てもらうと効果的です。なかなか適任者がいない場合は、オンライン英会話を使うのもおすすめです。教授やライティング・アドバイザーに文章を読んでもらえるようなアカデミックな環境にいる場合は、絶対に活用しましょう。そして、誰かにフィードバックを求めるとき、リーゼは "どこが良くなかったか? "だけでなく、"どこが効果的だったか? "と併せて尋ねることを勧めています。こう質問をすることで、あなたの文章でうまくいっている部分とそうでない部分を切り分けることができます。

別の草稿を書く

アーティスト ステートメントは時に刹那的です。今日書いたステートメントが、今はあなたの作品を完璧に捉えているかもしれませんが、来週や来年にはしっくり来てないかもしれません。"アーティスト ステートメントは一度きり "という考え方から解放されるために、リーゼはステートメントに日付を入れ、定期的に見返すことを提案しています。前編でも述べたように、アーティストが人間であるように作品のテーマや目の前にある世界は時とともに移ろい、変化しているはずです。なので大学を出た時に書いたステートメントと、35歳、50歳で書いたステートメントは違ったものになってくるし、なるべきです。ステートメントを見直すことで思考が整理されたり、その先の制作のガイドになってくれたりします。アーティスト ステートメントは、何かに応募するためだけに用意するものではなく、キャリアの輪郭を作る重要なもののひとつであると思います。

最後に

前編で最初に言った通り、これが絶対的なメソッドなわけではないので、ひとつのヒント・参考としてアーティスト ステートメント作りに臨んで下さい。なのでこの記事内容も刹那的で、都度、更新を加えながらアップデートしていけたらと思います。途中にもありましたが「定型的なアーティスト ステートメントでは、競争相手から際立つことはできません」。私たちもこの言葉を胸に、自分たちのステートメントに活かしていこうと思います。

*この記事を無断転載、コピー、複製、再配布することを固く禁じます。

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