5. AiRのススメ

▶︎ Artist in Residence - アーティスト・イン・レジデンスってなに?

アートパフィンに興味を持ってくださっている方の多くがご存知だと思いますが、アーティスト・イン・レジデンス(以下 AiR ) とは、アーティストの制作・キャリアサポートのプログラムのひとつです。参加アーティストは普段のスタジオから離れ、提供される特定の場所に一定期間滞在し制作やリサーチ・ディベロップを行います。よく“エアー” や “レジデンシー” と呼ばれます。日本にもたくさんの AiR があり、日本だとAIR_J 、海外だとRes Artis などがAiRデータベースとして有名でしょうか。

最初のAiRは1900年前後にイギリスやアメリカを中心に、アーティストに対する新しい支援のあり方として生まれました。パトロンたちが自身が所有する建物やアート施設にスタジオを用意しアーティストに制作に勤しんでもらう流れが起きたことが始まりです。同時期に、ヨーロッパではアーティストたちが都会を離れ芸術村を形成し制作拠点とする流れも起こりました。

その後、60年代になるとアーティストのユートピア的なコミュニティを目指すアーティストがレジデンスを形成するグループと、そこから外に開きゲストアーティストを招聘することで、より社会的に変化・刺激をもたらそうとする現在のAiRに近いグループが生まれました。そうして70年、80年代には様々なイニシアチブや団体が興るようになります。

90年代になるとグローバリゼーションの影響で、世界各国に思想や理念も様々で個性的な AiR の波及が起こり、00年代はより人の行き来が簡単になったことで国際交流の側面を持ち始め、美術館やアート機関、行政が AiR を主催するようになってきた頃です。2010年代以降はより特定のトピックや、リサーチにフォーカスした AiR など、アートを触媒として社会や土地を深く洞察・理解するための手法のひとつにもなってきています。

▶︎ なぜ AiR のススメなのか

まずは、美術館・アート機関・行政・有名民間 AiR への参加は賞や展示と同じくらいの価値を持っていることと、公募に応募する際に必ずといっていいほど提出を求められるCV/レジュメにおいても、AiR の経歴は大きな意味を持ちます。それだけでなく、展示、ワークショップ、出版やメディア露出があるケースもよくあることもポイントです。1度のAiR参加でCVに書ける項目が複数できることもあります。

次に、本来の意味である滞在制作することで作品が作れる、リサーチ・ディベロップができることにあります。より強調したいのは、AiRはいつもの制作環境ではない場所で行うため、限られた時間と共に、その場所性が付加されることで自身の境界が外的要因によって広がることがよくあります。その土地をより深く知り、そこを訪れたから、出会ったから作れる作品や習得できる技術がアーティストとして深みと広がりをもたらしてくれるのです。

そして、ネットワーク形成でしょう。AiRは展示で他国や他の地域を訪れることとはまた違った側面を持ちます。国内・海外関係なく、どこかに一定期間滞在するということは、あるコミュニティに属すことでもあります。そして多くのAiRはその土地の特色や産業、人脈といった様々なローカル資源を提供してくれます。また、他にレジデントアーティストがいる場合は、異なる背景のアーティストと交流することで、クリエイティブな相互作用が生まれやすく、AiR終了後もワールドワイドなネットワークへと広がっていきます。いい作品を作り続けることと同じかそれ以上に、人とのネットワークは私たちのキャリアにとってかけがえのないものです。

▶︎ AiR の種類

最初に触れた通り、AiR の形態は多岐に渡ります。ですが、その中でも大きく3つに分けて説明していきます。

① 全額助成のAiR
制作スタジオや工場、図書館等の施設・宿泊施設・制作費・アーティスト料・時には交通渡航費も全てカバーされる AiR です。この条件で募集している機関はオススメのひとつ目に挙げている美術館・アート機関・行政・財団 AiR が多いです。

② 制作スタジオ・宿泊施設の無償提供
運営が所有している施設は無償で提供し、制作費や生活費は自己負担という AiR です。

全額自己負担
AiR 参加に係る経費が全て自己負担の AiR です。

この3パターンが主要なスタイルと言っていいでしょう。ここに、最後に展示があったり、出版があったり、メディア露出・掲載などが加わることも多くあります。そして、どのAiRに応募するかは個人で違うと思います。①がベストであることは間違いないですが、その分必然的に競争率は高いことが多いです。

▶︎ アートパフィンの掲載 AiR について

アートパフィンでは基本的に①と②を中心に掲載しています。というのも、このアートパフィンもアーティストによって運営されているので、できるだけアーティストの経済的負担が少ない公募を紹介したいという思いがあります。(そして世界には有名でなくてもこれだけ負担が少なく参加できる AiR があることも知ってほしい…! )

日本でもACAC、ARCUSやPARADISEなど、世界からも注目されている AiR はありますが、海外に目を向けるとジャンルや特色などバラエティに富んだ①②の AiR がたくさんあります。①はもちろん採択されれば最高なのは言うまでもありませんが、②でも相当なサポートです。アートパフィンでは①②を積極的に紹介していきます。ですが、③も大きな選択肢の一つです。宿泊施設代や展示や宣伝、設備・機材など、そのAiRが提供してくれる物質的な環境を自分で整えようとするといくらかかるのかをまず計算してみましょう。すると意外と設定額は相場よりだいぶ低く設定されている場合もありますので、自分の予算と相談して価値があると思ったら応募してみて下さい。ということで今回はAiRについて書いてみました。定期的に AiR カテゴリもチェックして下さいね!

▶︎ 世界の注目 AiR 14選

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